花に喩えるほど君は弱くない 御題配布先 : http://cabin.jp/antique/ |
心做しか急く足取りで、静蘭は宮廷を後にしようとしていた。もうすっかり夕刻に差し掛かろうとしている、早く帰宅しなければ最愛のお嬢様たちの作る夕食に遅れてしまう。 静蘭は、先程の思い出すだけで厭忌の情が湧き上がってくる出来事を追いやろうと、只管(ひたすら)歩を進める、この場に切り刻めるものがあるのならば、即叩き棄てても可笑しくはない居所の悪さだった、ここが愛しい末弟である王の住まう王宮でなければ。 よもや、あの万年常春男に艶を含んだ言葉を呟かれ触れられるとは。 花ではなく、寧ろ獣のような存在であると自分に宣(のたま)ってくえれた楸瑛の顏面を殴っておけばよかったと、静蘭は今更ながら後悔した。 宮廷の出口へと向かう廻廊の途中で、ふと、静蘭は見知った人物を見つけた。若くして吏部侍郎及び主上付きの文官の地位に立つ李絳攸だ。 やや挙動不審に辺りを見回す絳攸の手には、1枚の紙が握られている。宮廷の地図であることは、静蘭には容易に判断できた。少しくしゃくしゃになっているように見えるのは、道がわからない故に怒った絳攸によって握られたからに違いない。しかし、地図がある上で迷ってしまうのは、一種の才能である。 あの常春将軍と同様に双花菖蒲と謳われていると考えると、絳攸を見て、少々腸(はらわた)が煮くりかえらないわけでもないが、流石に暗くなる今、あれでは可哀想かもしれないと、静蘭は声を掛けようとした。 「絳攸殿」 静蘭の声に、絳攸は過敏に反応を示し振り返る。安堵の色を含む表情を見せる傍ら、何処かばつの悪そうなようにも見え、静蘭は軽く苦笑した。 「・・・せ、静蘭か、どうした?」 「いえ、そろそろ帰宅しようとしていたところです、お嬢様の夕飯に遅れると困るので。絳攸殿もお帰りならば、門までご一緒しませんか?」 時間的に帰宅するのだろうと判断し、できるかぎり絳攸の矜持を傷付けない言葉を選ぶ。高い矜持を傷付けられることがどんなに辛いか、静蘭も理解できるので、敢えて気を利かせる。これが楸瑛だったならば、そんな気遣いは無用なのだが。 仮に絳攸がこのまま吏部へ戻るのだとしても、このまま迷い続けていれば、おそらく楸瑛が甲斐甲斐しくも迎えに来るだろう。その時にはそのまま置いていくことにしよう、静蘭はそう決意した。 静蘭の言葉を聞くと、絳攸がほっとした表情を見せた。どうやら、静蘭の考えは前者が正解だったようだ。 「そうか、それなら一緒に門まで行こう」 しかし、瞬時にいつものように胸を張り、はきはきと返事をする絳攸を見て、静蘭はやはり内心笑みを浮かべる。 どうしてこの外朝に務めている官吏たちは、これまであからさまに迷う絳攸に気付かないのだろうか、誰かが(例えば、彼の養い親であるとか)裏で手を回しているか、絳攸の演技力が素晴らしいのか。どちらにしても、絳攸の本質を知ってしまった静蘭には関係のないことだった。 「そうですか、では行きましょう」 さり気無く絳攸よりも数歩先を歩くように、静蘭は歩き始めた。 ⇒ 續 1の続き・・・ではあるものの、あまり意味はない話。とにかく、帰宅までに誰かを登場させたかったから絳攸を出しました、みたいな・・・・・・ごめんなさい、絳攸。 静蘭+絳攸(CPではない)。静蘭は、比較的絳攸には友好的だと思う。何故ならば、主王付きであるため劉輝の面倒をみる存在でもあるし、秀麗には親切に勉強を教えてくれたから。一応は旦那様である邵可の義甥でもあることだし(夕食に招かれてやってくるときは、何かと食材を持ってきてくれるし)。 まあ、最愛のお嬢様の結婚相手(秀麗本人は知らない上に、紅家の方が勝手に決めた縁談だけど)ではあるが、こう、秀麗を慕う他の厄介な男どもをずらっと並べると、一番安全牌だなぁ・・・とは思っているはず。 けれども、あの常春将軍に首輪をつけて、厳重に管理していて欲しいとも思っている。 基本双花なので、絳攸×静蘭は・・・書けないな、無理。(私的見解では、どっちも受け。) |