気付けばいつも隣には君がいた 御題配布元 : http://lonelylion.nobody.jp/ |
朝、ベッドで目覚めて、自分のものではない温かさを感じるのは久しぶりだった。初めてのベッドも、自分のものよりも寝心地がよく広くて、思いの外落ち着いて眠ることができた。自分の手よりも明らかに大きなそれが腰に添えられていたのには思わず焦ってしまったが、今迄の悪戯に比べれば可愛らしいものなので、大和は敢えてスルーしておく。それに、滅多に見ることのできない、そして、久しぶりの彼の無防備な姿を見て、起こしてしまうのは忍びないと思った。 彼は、よく大和のことを可愛いと言っていたが、大和に言わせれば、やはりこの綺麗な顔でそう言われるのは、今でも抵抗がある。それを知ってか知らないでか、いつもの彼の笑顔に誤魔化されて、甘んじてしまう自分の情けなさを度々感じた。 思い返してみれば、誰よりも自分の近くにいたのは、他でもない、吹雪でも健吾でもない、千尋だと大和は思う。気付けば、いつだって傍にいた。どうしてだろう、と思う。始めは、出会った当初は違ったはずなのに、いつからか、彼が大和の一番近くにいる。 友情というには持て余し、愛情というにも当てはまらない千尋の執着に、大和はしばしば戸惑いを覚える。ただ、自分ばかりが彼に頼っていると思う反面、縋るような表情をされることもある。一体、こんな自分に何ができるのかと思わずにはいられない。いや、逆に迷惑ばかりかけているだろうに(迷惑を被っているのは、寧ろ悪戯されていた大和の方だが)。 「・・・・・・おはよ、小林クン」 少し眠たげな声が、頭の方で低く響いた。昨日の夕方、突然大和の目の前に現れたときのように、その声には、歓喜を含んでいる。 久しぶりの再会だった。高3の夏に北海道に発った大和は、そのまま春を迎えた。それから1ヶ月以上が経った今、前触れもなく彼はやって来た。 「おはよう」 一夜を過ごしたものの、千尋は肝心なことを口にしていないため、未だに大和はその意図を掴めない。だが、それ以上に、昨日は再会の嬉しさが先走り、後回しにしてしまった節がある。しかし、今迄千尋が大和に対して予測出来ることをした試しなどないに等しいのだから、無理もない。寧ろ、千尋らしいと受け入れる方がよい。 「・・・・・・どうしたの?」 大きな腕が更に大和の体を包み込む。抱きしめられるのは今に始まったことではないが、朝、こんな風にベッドの上でだと、まるで恋人同士のようだと、そう思った矢先頭(かぶり)を振った。 そんなことは有り得ない。千尋なら相手に困らないことなど、大和は充分知っている。冗談でも、こんな貧相な、ましてや男の自分を、と考え大和は固まった。 「・・・・・・もう、離さないから」 千尋が大和の頭の上で、再び小さく、低く囁いたのだ。瞬間、大和は僅かに震えた。恐怖や不安ではない、もっと別のものが、大和の胸の内に込み上げる。戸惑いだろうか驚愕だろうか、歓喜かもしれない。 「キミと夏に別れてから、半年以上、俺にしては結構頑張ったと思わない?」 大事な存在。千尋にとって、大和と吹雪と健吾の3人さえいれば、それで充分だった。だが、それが欠けてしまった去年の夏。卒業して離れてしまうなら、もっと我慢できただろう。例え、自分はまだ子供だと、千尋自身が自覚していたとしても。 吹雪と健吾だけでは埋められない、千尋の中の何か。 「・・・うん。千尋クンなら、すぐに追いかけてきてもおかしくなかったよね」 ただ、近くに立っているだけでも満たされるのに、何故かいつも手を伸ばしてみたくなる。今も、こうして腕の中に収めてしまう、止めることもできずに。 しかし、前に進み始めた大和を目の当たりにして、千尋は思わず立ち止まった。まだ、前に進むことのできない自分は、大和を引き止めることもできない。引き止めてはいけないのだ、と感じた。いくら、ずっと一緒にいたいと思っていても。 大和は、千尋の綺麗で、少し不安に歪んだ顔を見上げた。 こんな時だ、彼が無意識に自分に縋っているように見えるのは。助けてとはけして口にしない。ただ、包み込んであげたくなるような脆さがある。大層なことはできないとわかっているけれど、思ったままを大和は口にする。 「・・・・・・ありがとう」 ただ見送ってくれて、見守ってくれて。 本当は知っている。 たくさんの女の子たちが千尋に惹かれていても、けして千尋が彼女たちに靡くことがなかったのを、大和は知っていた。本当に大切に思われていたのが誰たちなのか。意地悪だが、寂しがり屋で優しい、自分に似た彼のことを。 「吹雪ちゃんたちもね・・・まだ、こっちに来たことないんだ。・・・きっと、千尋クンと同じこと考えてくれてるんだね」 勿論、大学受験の勉強も理由に含まれていたはずだが、それでも忙しい中、吹雪は手紙を送ってくれていた。最近の手紙は、大学を合格したという報告のものだったのを、大和はしっかり覚えている。 「・・・・・・会いに来てくれて、ありがとう」 昨日、久しぶりに千尋の顔を見て、全く何も変わっていない彼に、大和は安堵した。さすがに、その時点で、既にこっちに拠点を移した、という事後報告を聞き呆れすらしたが、千尋が決定した以上、何も言うことはしなかった。 嬉しかったのだ。彼の無茶を咎めることすら考えるに及ばないくらいに。 千尋の顔が、自然と綻ぶ。それを見て、大和も安堵する。 「・・・小林クン、俺のことどう思ってる?」 千尋の言葉に、大和は返答に詰まった。これが悪戯で言っているのなら、まだ返しようもあったが、生憎、今の千尋は違った。これは、大和が考えている千尋との関係を言えばいいのか、ただ、千尋への思いを伝えればいいのか、微妙な問いだ。 「・・・・・・好きだよ。僕ら友達でしょ?」 大和は両方言っておくことにした。ただ、異性である吹雪は別としても、同性の健吾に友達だ、というのとは、また全然違った意味があるのは、大和も自覚している。こんな風に言うのは久しぶりだと思う反面、大和は、今更だとも感じる。 「ホント?」 勿論、大和の言葉に疑いなど、千尋は抱いていない。それは、いつだって、大和が身体全体で表現してくれるからだ。自分の愛犬のように、惜しみなく愛情を降り注いでくれるこの存在に、千尋はどれだけ救われてきたかわからない。 「嫌いな人とは、一緒の布団で眠らないよ。千尋クンだってそうでしょ?」 「・・・そうだね。うん、俺も好きだよ」 一体、彼からこの勿体無いまでの言葉を聞ける人物が、一生で何人いるだろうか、と大和は思った。少なくとも、その人物の中に2人、吹雪と健吾は既に登録済みだ。 今は自分が言われているが、傍から見ていれば、聞いているこっちが恥ずかしくなる。この千尋の行動に対して、免疫のある女子を、大和は、吹雪とあげは以外今迄お目にかかったことがない。それが無理もない話だとは、きっと、この目の前の男を見れば瞬時に理解してしまうだろう。 「相変わらずだなぁ・・・千尋クンは」 小林クンこそ、と逆に言い返されて、大和は笑いながら身体を起こして座る。ベッドに寝た状態の千尋に微笑むと、大和に続くように千尋も起き上がる。腕が伸びてくる。千尋は、以前よりも短くなった大和の髪に触れた。 けして、同い年の男同士がするような行為ではないだろう。それでも、千尋はやめることはないし、大和も拒むことはない。慣れと言ってしまえば早いが、このスキンシップにしても常日頃の悪戯にしても、大和は、千尋の常人とはかなり異なった愛情表現を見出し、全面的に受け入れている。 「ご飯食べようか?」 千尋の言葉に、大和はうんと首を縦に振った。ベッドから降りる千尋に従うように、大和も床に足を着ける。その途端、大和の小柄な身体には、幾分大きな千尋のパジャマが如何にも際立った。ズボンの裾は勿論のこと、袖も数回折った状況は、何故か微笑ましい。本人もそれを意識しているのか、少し情けなさ気に自分の格好を見ていた。 「今・・・笑ったでしょ、千尋クン」 千尋の反応が気に触ったらしく、憎らしげに見上げてくる大和に、千尋はいつになく愛しいものが込み上げてくるのがわかった。もっと近くに、と2人の間の距離を縮める。 全く悪びれもせず微笑んでいる千尋に、大和の顔をも次第に緩んでくる。いつも口にはけして出さないけれど、これからも一緒にいたいと思う。一緒にいて欲しいと思った。 END あとがき 初の試みをしてしまいました!・・・・・・おまけの小林くんの千尋×大和(>_<)実は、かなり前から大好きで大好きで、いつか書いてみたいなぁ・・・なんて思っていましたのです。 友達以上恋人未満的な2人に乾杯!! 借りてきた御題も、『腐れ縁な二人』なんです・・・もう、少女漫画でもたまりませんvvvLaLaでの連載が終了してしまったのは、非常に残念ですが・・・でも、この2人はいつまでも一緒だと思います。 |