痺れるように 熱い甘さが疼いてる |
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今現在、珀明は、突然邸を訪れてきた男―――藍龍蓮―――を目の前に、泣き出したくなる衝動を、なんとか抑えていた。それは、久しぶりに会えて嬉しいなどと云う、可愛い感情からくるものではない。寧ろ、今、だけは来て欲しくなかった。なんて、間の悪い男だろう、そう、嘆いていた。 「久しいな、心の友其の三。会えて嬉しいぞ」 しかし、当の本人は、そんな珀明の心中など知らないため、久しい再会を喜んでいるばかりで、珀明の表情などお構いなしに、近付いてくる。 「そ、そうか・・・」 僕もだ、なんて、返せるはずもなく。それに、そんなことを口に出してしまったら最後、龍蓮が調子に乗ってしまって手に負えないことは火を見るよりも明らかだ(ただでさえ、元から手に負えないのだから)。 「珀明、」 龍蓮の、いとしさとか、あたたかさとか、そう云った感情を全て、ぶつけてくるような視線が送られてくるのが、わかる。いつだって、龍蓮は、こんな顏をして見せる。 やめて欲しい、見せつけないで欲しい、どれだけ龍蓮が自分と云う存在を欲しているのかなんて、知りたくもない。 もう、来てくれるな。と、そう云えることができるのならば、もっと楽になれるのかもしれない。しかし、珀明は心の何処かでそれを拒絶していたし、実行できるとも思えなかった。 「珀、」 龍蓮が、手を伸ばしてくる。しかし、肩に触れられる直前で、びくっと過敏に反応を見せた珀明に、龍蓮はその眉を僅かに顰めて、動きを止めた。 それでも、今、触れられたら、余裕とか理性とか矜持とか、そう云ったものが全部吹っ飛んでしまって、どうしようもなくなりそうだ。顏を合わせただけで、泣き出してしまいそうだと云うのに。 「・・・珀、触りたい」 そう、直球に言葉を向けてくる龍蓮は、珀明の方が恥ずかしくなってしまうくらいに素直で、それに対して真っ直ぐに応えられないせいで、珀明は余計に追い詰められてゆく。 「三月も会えなかった、」 情欲がちらりと覗く言葉とは裏腹に、龍蓮の上から見下ろしてくる瞳は真剣なものであった。 珀明は、そもそも三月も会えなかったのは、誰のせいだと思っているんだと、そうぶつけてやりたい衝動に駆られたのだが、今更過ぎて、口を噤んだ。どうせ、なかなか会えないことも、自分から会いに行くことができないことも、今に始まったことではないのだし、これからも変わっていくこともないことでしかない。 「我慢できない、」 そう云って、再び手で触れてこようとした龍蓮の、その手首を掴んで、珀明はその動きを止めた。 その表情に、僅かばかり苦痛の色が浮かび上がっていることに気付いた龍蓮は、無理に振り解くことも、それ以上触れようともせずに、珀明の次の行動を待った。 「・・・・・・・・・・僕、だって、我慢なんかできなくなる、」 触れられたら、もう、駄目だ。 龍蓮が、触れられないことを我慢できないのならば、自分は触れられたら我慢できないのではないだろうか、と客観的に、珀明は感じている。 「我慢をする、必要があるのか、」 「・・・・・・っちょ、触るなっ」 珀明が手首を掴んで止めていたのとは反対の手を、龍蓮は動かし、珀明の髪に指を絡めた。そして、素早く髪紐を取り去って、黄金色の髪を解放させる。 珀明も、空いた手でそれを振り払おうとするが、今度は逆にその腕を捕らえられてしまう。珀明の手首を固定する龍蓮の手指に絡まった髪紐が、互いの腕を伝わって重力に従い項垂れている。 「・・・欲求不満、という顏をしている、」 「・・・・・っ、悪いか!」 そもそもお前のせいだ、と思ったことは、間違いなく龍蓮を調子付かせてしまうだけだろうと考え、珀明はそれ以上の発言を控えた。しかし、龍蓮の言葉が、あからさまに珀明の羞恥心を煽ったせいで、心の平静は保たれるどころか、更に、顏が紅潮してゆく。 平静である声が、揺らぐことのない感情が、乱れることのない呼吸が、欲しい。 「いや、拠所無いことだ。珀も、健全な青少年であることは間違いない、」 「・・・っ、そうゆうことを、淡々と述べるなっ」 早々に解放して欲しくて、龍蓮の腕を振り払おうと、自らの腕ごと振って逃れようとするが、それ以上の力で拘束され、解放は望めない。珀明が龍蓮の手首を掴んでいた方を解放するが、逆効果であった、今度は珀明が腕を掴まれてしまった。 「どうだ、私で手を打たないか」 婉曲な云い回しではあるが、今までの龍連との関係および現在の言動から鑑みるに、珀明には、この発言が一体何を表わして、提案しているのかわかってしまう。それは、非常にありがたくもなんともないことではあるのだが、わかってしまうのは仕方がない。 そもそも、この関係に、今更このような提案をすること自体が不自然極まりないと云うのに、わざわざそれをやってのけた目の前の男が、珀明は許せなかった。これこそ今更だが、趣味の悪い男だ、と、そう思う。 「・・・・・・ばっ、それの何処が、健全な青少年、のすることだ・・・!」 「確かに、」 含んだ笑いを見せるのは、すべてをわかっての発言なのだと、そう告げているような気がして、気に入らない。 一瞬、掠めるように龍蓮の瞳を視界に入れれば、龍蓮の暗い夜の昊のような瞳が自分を見つめていて、珀明はどうすればいいのかわからなくなった。龍蓮の髪も瞳も、綺麗で好きだと云えるものであったけれど、今は、軽く憎らしいと、思った。けれども、ひどく、手を伸ばしてしまいたくてしようがない。 「・・・欲しいな、」 「何を、」 「珀を、」 だから、やめて欲しいと願っているのに。欲しいと、伝えて欲しいだなんて思ったことは一度もないはずだ。なのに、求められることが、何処か嬉しいと、そう感じてしまう自分は、最早手遅れなのだと、感じた。 もう、お仕舞いだと、悟った。 優しく口説くように、蟀谷(こめかみ)に、ふわりと口唇を落とされて、愈愈、おとされた。 ふと、視線が、肌蹴た上衣から覗く鎖骨に向かった。暫く見つめていると、そこに触れたい衝動に駆られて、不意に下から鎖骨へと接吻すると、龍蓮が小さく震えるのがわかった。少し驚いたような表情で見下ろしてくる、それが妙に小気味よい。 「・・・随分、積極的だ」 「欲求不満だ、と、そう指摘したのはお前だ、」 それは、身体中に、まるで余すことのないくらいに口付けを降らせてくるような男の云う言葉ではないだろう。ただの鎖骨への接吻だけなんて、どれほど可愛いものだろうか。それとも頻度の問題か。 ともかく、龍蓮が、再び睡衣を剥ぎ取るという行為を再開し始めたせいで、珀明もそちらへと意識を向けざるを得なくなった。 「・・・ぁ、」 剥き出しになった大腿に、龍蓮の掌が触れる。柔く掴むような動きに、くすぐったいのと同じくらい、感じてしまうのが癪に障って、珀明は身体を捩るが、下半身をがっちりと固定されてしまっているため徒労に終わった。 下顎へと龍連の唇が触れた、と、そう感じると、すぐさま、唇同士が被さった。視界が一気に暗くなるのは、龍蓮のしな垂れる髪のせいだ。 「・・・んんぅ、」 少しの間、唇を合わせるだけの口付けを続けると、龍蓮は、ゆっくりと、少しだけ名残を惜しむように唇を離した。 「・・・・・・・・・うぅ、」 唇を解放された珀明は、何故か、困ったような声を上げているのが、珀明を跨ぐようにして上に覆い被さっている龍蓮には、わかった。そして、僅かな躊躇を含んだ五指で、袖を掴んでくる珀明に、どうかしたのかと、耳元で尋ねると、びくりと肩が揺れた。 「・・・龍、蓮、」 気付け、分かれ、察しろ。珀明は、心中でそう念じながら、龍蓮を見上げた。眼を直接見ることができずに、少し下辺りに視線を向ければ、龍蓮の口唇が、先刻の接吻のせいで艶めいているのがわかって、更に珀明の視線は宙を彷徨うことになった。だが、逸らした視界の端に龍蓮の口端が映り、それが少しだけ上がるのが、見えた。 「おいっ、・・・っ、」 珀明が余裕のない声で呼び掛けたとほぼ同時に、龍蓮の掌が、珀明の内股を掴んだせいで、珀明は息を呑み、次に出す筈であった言葉も一緒になって嚥下してしまった。 最早、下半身を僅かに覆うだけとなった睡衣は、その機能を果たすことも叶わない。珀明は、再び与えられた刺激に、改めて己の熱情が高ぶっていることを自覚せざるを得なくなるのだが、中途半端な愛撫は、それを解き放つまでには至らない。 はやくはやく、と、内心では乞うことはできても、言葉に出ないのは、恐らく、頑固な矜持のせいだろう。我慢しようなんて、触れられたときから、頭から消し去っているけれど。 「珀、」 「ぅう・・・」 何処か、催促するかのような龍蓮の呼び掛けに(果たして、何に対する催促なのかは追窮したくはない)、珀明は再び呻る。触れ合いたい、と云う気持ちは、互いに同じであるのだから、迷うことはないはずだ。しかし、その思いは、言葉では表現できない。 だからなのか、珀明は行動に移し、龍蓮の首に腕を廻して、その首筋に顔を埋めるようにして、下から抱きついた。動いたせいで、身に纏うものが排除され完全に赤裸となったが、気にならなかった。寧ろ、頭のすぐ傍に龍蓮の顏があって、吐息が触れて、そちらの方に意識が向く。 吐息が、より近付いてくるのがわかって、愈々、消えたかと思うと、頬に口付けをされていた。珀明は、口付けの位置を変えようと顏を動かして、そのまま、龍蓮と唇を重ねた。今度こそ、重ねるだけの口付けではなく、絡み合うようなそれが珀明の強張った理性や矜持を解いてゆく。 開きかけた唇の隙間から、熱く濡れた龍蓮の舌が差し込まれ、丁度頭を擡げていた珀明の舌に絡み付く。何度も角度を変えるように口付けられた。龍蓮の腕は、同時に首に腕を絡めている珀明の腰へと廻され、きつく抱き込まれる。 「・・・ん、ぁ・・・ぅ、」 勃ち上がりを見せる自身が、抱き込まれているせいで、龍蓮の身体に当たって擦れて、その刺激が更に珀明を追い詰める。力の入らなくなった腕を緩めて、解放されるように、体重を掛けて、臥牀に沈もうと、龍蓮から身体を離すが、互いの身体の距離が空いた隙間に、龍蓮の片腕が入り込んできて、珀明の胸の突起に触れた。 「いっ、」 唇が解放されても尚続く胸への愛撫に、小さく震えながら、珀明は臥牀に沈んでゆく。その動きに従って、龍蓮の頭も降りてくる。そして、顏中を、愛しむかのような仕種で、唇によって愛撫される。 「りゅう、・・・れ、・・・も・・・っ」 優しい愛撫は、気持ちが良い。同時に、緩慢な動作では、余裕を与えられるために羞恥心もより強い。 しかし、今は、物足りない。 「珀明、」 両脚の間にある龍蓮の脚を覆う衣が、珀明の内股をさわさわと刺激する。そのまま、膝でもっとひどく刺激を与えてくれればいいのにと、願わずにはいられないほど、珀明は自身の熱の高ぶりを持て余している。 「・・・龍、蓮・・・・・・もっと、」 「もっと、」 珀明の言葉に遅れて被さるように、珀明は同じことを繰り返して問い返す。 「っ・・・早くしろ・・・っ、」 二度も云ってやるものかと、心の中で悪態を吐きながら、珀明は、龍蓮の視線から逃れようと、顏を横に逸らして、頬を臥牀の褥子(しきぶとん)に押し付ける。 「了解した、」 龍蓮から是、と云う返事が返ってきて、珀明は安堵する。そして、顏を上へと向けるが、視線は故意に龍蓮と合わないようにして、龍蓮の上衣の前を肌蹴させた。 龍蓮から、再び口付けが落ちてくるのがわかると、珀明は避けることなく、触れ合う直前で、早くしろと、もう一度だけ催促すると、自分からも少しだけ動いて、三度目の口付けを受け入れた。 了 なんていうか、こっぱずかしさが先出し、これ以上書けなかったちょっとエロ話・・・失敗作とも云う。うをー、誰、別人?!みたいな珀明でごめんなさい・・・っ!書いてて自分でもあれぇ〜とか思ってたけど、mottainai精神が勝ってしまったために、そのまま書き続けちゃった、と云う、反論のしようもないものです(-_-;) 「・・・お、お前のために云ってるんじゃないんだからな!僕のためなんだからな!」っていう一文を、早くしろ、って云った後に入れようか入れまいか迷って、結局入れませんでした。ツンデレのテンプレ言葉、うーん、一度使ってみたい気もするのですが・・・なんとなく、弄り辛くなるので、今だにできません・・・。 最後に一言、龍蓮はちゃんとわかってます(ぇ |