離れゆく 日々を悼む |
きし、と音を立てて龍蓮は寝台の端に腰かけた。閉ざされた珀明の瞼に、影が落ちている。青ざめた肌に、龍蓮は手を伸ばした。今は、吏部が一番忙しい時期だ。きっと矜持の高い珀明は人間の限界に挑む勢いで徹夜を続けているのだろう。 「――龍、蓮?」 戯れに唇に触れた辺りで声が掛かる。目覚めさせてしまったらしい。開いた瞳は、酷く眠そうで、余り龍蓮を捉えていないようだった。目の下には隈が濃い。数度瞬きして結局目を閉じた珀明に、龍蓮は不機嫌そうにため息を吐いた。 「・・・久しぶりなのに構ってくれないのか。心の友。」 「延延と旅に出歩いて文も寄越さない薄情者にどうこう言われたくないね。大体僕はお前と違って出世街道を驀進中だ。1ヶ月ぶりの仮眠以外の睡眠時間は脳の回転率のために凄く貴重なんだ。」 一瞬目を開いて、睨み上げ、矢継ぎ早に珀明は言う。そうして、言い終わると同時に目を閉じて、また睡眠体制に入る。見事なまでの省エネっぷりだった。が、龍蓮としては正直面白くない。 「珀明。」 「・・・・・・。」 「珀明。」 「・・・・・・・・・。」 「はく、」 「五月蝿い。」 三度目の呼びかけで、珀明は目を再び開いた。ギ、と鋭い目線で睨まれる。漸く構われて、龍蓮は嬉しそうに少し目を細めた。龍蓮の纏う空気が、ふ、と緩む。 其の様を見て珀明は怒鳴ろうとした言葉を飲み込んだ。龍蓮の擁く孤独だとか、立場だとか、そういったものを、賢しい珀明は漠然と把握していた。そして、龍蓮が秀麗や影月を大切に思って居るのも知っていたし、龍蓮が自分に甘えてきているのもまた、知っていた。彼の抱く何処か絶望的な立場を、癒せるの人間は余り多くない。其れを知った上で、龍蓮は自分の元へ来たのだ。どれだけ忙しい状態に自分が居るかも知った上で。 珀明は無言で寝返りを打って、寝台の端まで転がる。そして、空いた隙間に龍蓮が滑り込むのを許容した。次いで後ろから縋るように抱きしめられて、細く、ため息を吐いた。龍蓮の腕はいつも少し体温が低くて、珀明の中の何を少しづつ奪ってゆく。遠慮を知らない藍龍蓮。けれど珀明は、其れが別段嫌いでは無いのだ。拒否するつもりは無いのだ。龍蓮が其処に付け込んでいるもの知っていたけれど。 (いち、にい、さん、) 何となく、珀明は数を数えた。背中から奪ってゆかれる熱に意識を持っていきたくなかったのだ。そして、突き落とされるように眠りへと落ちてゆく。 「珀明、寝たのか・・・?」 首筋の後ろで、くぐもった声がする。珀明は意識の隅で少し笑った。 そうだよ、龍蓮。僕はもう寝た。だから、そんな声を出すな。僕は忙しいんだ。だから目の前に現れるまで、すっかりお前の事は忘れているんだいつも。今だって、もう、お前の事を考えるほど暇じゃぁ、無いんだ。 「はくめい。」 自分の事を呼ぶ声が、存外寂しげな事を珀明は知っている。藍龍蓮が孤独であることを、義務付けられている人間であることを知っている。 (ああ、本当に、もう。) (忘れていたことを後悔なんてさせるなよ。) 世羅さまから誕生日(04/02)の贈り物として頂きました、龍/珀小説です。世羅さまは、静蘭(清苑)受けが好きな方だというのに、私のために・・・慣れない龍/珀を書いて下さって・・・誠にありがたいです、ここでも感謝の言葉を述べさせていただきます。(つまり、大好きです、ということvvv) ツンな珀明が愛しい。構って欲しがる龍蓮が可愛いvvv後ろから抱き締める龍蓮が好きvvやはり龍蓮が抱き締めるなら、前よりも後ろから!(変な妄想抱いてます。) |