私の全てであったこの世界は、とてもちっぽけなものだったと君が居なくなって気づいた(君がいないとこんなにも違うんだ)
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紫州王都貴陽を離れ、自らの故山(ふるさと)である藍州ではなく、殆ど赴くままに東へと歩みを進めた。 今度の漂泊の旅が辿り着いた先は工、芸、楽などあらゆる職人、楽師たちが集まる内陸に位置する碧州の州都の郊外であった。職人の都であるだけあり、街に施されている施設や建物の装飾や細工は凝ったものだ。 だが、今、自分が訪れている郊外の少し物寂びれた村は、人々の慎ましい暮らしを感じさせる趣き深い情緒が漂っている。僅かに欠けた感のある石で造られた家は、それでもそこに刻まれている彫刻で、細(ささ)やかな贅が味わえる。 夕陽が沈み始め、西の昊(そら)が回青橙(だいだい)に染まる。 此処が、心の友其の三碧珀明が生まれ育った土地なのかと、龍蓮は、貴陽で最後に言葉を交わした友のことを思い浮かべた。 藍龍蓮の名を襲名し、藍家を出てから今まで、只管(ひたすら)独りで国内を彷徨してきた。その間、どの州も、勿論この碧州とて、何度も訪れたことはあった。 だが、この土地で生まれた者が、自分にとってのかけがえのない友となった今、これまでと違う心境、観点から、世界を臨むことができる。 それが、そのことが、こんなにも大きいことだと、これまでの自分は知っていても理解できなかった、自分のものとして享受することができなかった。 この大気が、土壌が、街が、人が、大切な心の友を育んできたのだ。そう考えると、世界がとても愛しく思える。今、この世界が自分を包み込んでいるように、器の大きな友の存在が自分を護っていてくれる。 孤独なだけの世界が続いた人生で、愛する者が、慈しむものが手に入った。 孤影は遠い過去のもので、1人はけして独りではない。それを与えてくれたのは、3人の友。 あまり心配を掛けさせるな、怒った顔で言葉を向けてくる友の顏が、遠く離れていても鮮明に思い浮かんでくる。 街の方から微かに聞こえてくる二胡の凛とした音色が、夕闇を迎える人々の心を癒す。 「(・・・・・・・・・心の友其の一の腕には敵わぬな)」 了 |