包まれながら、 吹き抜けてゆこうと思います |
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留三郎と伊作と別れると、タカ丸は、再び長屋の廊下へと戻り、先程聞こえた己の名を呼ぶ平滝夜叉丸の声がする方へと、髪結い道具を片手に近付いてゆく。 すると、直ぐに滝夜叉丸の方がタカ丸を見つけ出して駆け寄って来る姿が見えた。少し離れていたところからでも、何か焦ったような様子でいるのがわかって、タカ丸は首を傾げる。自分は授業中に何か失敗でもやらかしてしまったのだろうか、だとすれば、思い当たる節がありすぎてよくわからない。ただでさえ、周囲に追い付くために課題を与えられている身なのだ、補習が加わったらとんでもないことになることは目に見えている。 「・・・タカ丸さんっ、」 タカ丸の目の前に立ち止まると、滝夜叉丸は、タカ丸の服の胸の辺りを掴み、縋るような視線を向けてくる。 「・・・え、どうしたの、滝夜叉丸、」 普段の高飛車な態度や物云いが嘘であるような状態を目にして、タカ丸は少し戸惑いを覚える。今まで、このような滝夜叉丸を見たことがないわけではなかったが、やはり日常との落差が激しい。とりあえずは、落ち着いてと言葉を掛けながら、タカ丸は滝夜叉丸の両肩に、ぽんと手掌を軽く置く。 今までの滝夜叉丸との付き合いから察するに、このような事態に陥る原因として可能性があると云うのは、その殆どが、滝夜叉丸が所属する体育委員会絡みであると、タカ丸は把握している。だから、今もそうなのだろうと仮定だけはしつつ、相手からの反応を待つ。 うん、それにしても、いつ見ても奇麗な髪だ。 「・・・あの、大変申し訳ないのですが、今晩の夕食当番を代わって下さらないでしょうか、」 少し早口になるのは、やはり、焦っている証拠だろう。 「・・・何か用事ができたとか、」 そもそも、自らを優秀と称するだけあり、滝夜叉丸は殆どの事項は何でもこなしてしまうくらいには才能に恵まれているし、他人に頼ることがないことを、タカ丸は知っているからこそ(何しろ、彼はそう云ったことを詳らかに口にしてしまうと云う癖があるのだ)、そう返した。 「はい。先程、委員会の方で招集がありまして・・・恐らく、学園外を走り回るか塹壕堀りかバレーか・・・その辺りは、七松先輩のお心次第ですが、そうなるとどうしても今日の夕食当番を遂行できるとは思えなくて、」 ああ、やっぱり、体育委員会絡みなんだなぁ、と納得しながら、タカ丸は、お願いしますと頼んでくる、自分よりも背の低い年下の同級生を見下ろす。 「当番を代わるのは、構わないんだけど・・・・・・俺のお願いも聞いてもらえるかな、」 折角、学年一優秀と自分で云う程に賢い友人を捕まえたのだから、この好機を逃すつもりは、タカ丸は毛頭なかった。よく耳にする(そう云えば、文次郎くん辺りが云っていたかもしれない、とタカ丸は思い出す)忍者は使えるものは何でも利用する、と云うのはつまりはこう云うことだろう、と解釈しながら、言葉を繋げる。 「近いうちに、俺の課題見てもらえると嬉しいな。難しくてわからないんだ・・・あ、それと、ついでに、髪弄らせてくれるともっと嬉しい」 「・・・はい、お安いご用ですとも!この、学年一成績優秀で学園サラストランキング二位を誇る、平滝夜叉丸にお任せ下さい。必ずや、タカ丸さんの課題が終わるよう尽力します!」 漸く、普段の滝夜叉丸の状態に戻ってくると、やはりこちらの方が彼らしいと、タカ丸は笑みを零す。その癖、上級生や年上には、一貫して丁寧な物腰や物云いをするのだから、彼はその点でもとても優秀だと思う(けれども、同学年である自分に敬語である必要はないのに、とは以前から感じてはいる)。勿論、一度箍が外れてしまうと、ときどき困ったことにはなるけれど。 「・・・それにしても、夕食にも間に合いそうもないなんて、大変だね、体育委員会も」 その後に続くだろう、火薬委員でよかった、と云う本音を、タカ丸はそっと胸の奥にしまった。 「・・・仕方ありません。やめて下さいといくら云っても、何度云っても、何遍云っても、先輩の耳に入ったら反対側の耳から抜けていくんです。全く・・・この、優秀な私がついていながら、何と云う情けない・・・」 額を示指と中指で軽く触れながら、少し演技めいた口調で嘆いてみせる滝夜叉丸に、タカ丸はただ苦笑を返すしかなかった。 「・・・それだけならまだいいんです。ただ、方向音痴の三年が迷子になるとそれを・・・・・・って、三之助!!」 再び口を開いて喋り始めた滝夜叉丸が、ふと途中で言葉を止めると、タカ丸の後方へと目線を伸ばし、驚いた表情を見せる。どうかしだのだろうか、とタカ丸は疑問に思うが、その後、すぐに視線の先の人物の名を叫んだので、タカ丸は慌てて身体ごと後ろを向くと、そこには、三年の次屋三之助が、庭を横切るところで、丁度こちらに気が付いて立ち止まっていた。 「お前、このようなところで何をしている!」 逃げられる前に、と三之助の傍へと駆けて行った滝夜叉丸に向かって、三之助は不思議そうな顏をしている。タカ丸は、滝夜叉丸の後を追うように、庭に下りた。 「・・・滝夜叉丸こそ。体育委員の招集かかってんだろ、」 「滝夜叉丸、ではなく、先輩を付けろと何度云ったと思っている!・・・・・・それに、今自分が何処にいるのかわかっているのか、集合は校庭のはずだ、が・・・・・・また、迷子なのか・・・」 「だから、迷子じゃないって・・・それに、俺が迷子ならそっちだって迷子でしょう、」 「莫迦者!ここは四年の長屋だ!」 だから、私がここにいることは何ら不自然ではないのだ!先程から、歩調の合った(しかし噛み合ってはいない)会話を繰り広げてゆく二人を傍目で観察しながら、タカ丸は仲が良いなぁと思いつつ、微笑んだ。このような口論ができる相手は、自分にはまだいないので、少し羨ましい。 「そもそもお前はわかっていないのだ、私の優秀さと云うものを・・・・・・もう少し意識すれば、きっとお前も私のことを尊敬して、いや勿論今も尊敬しているに違いないが、より尊敬しすべき先輩として・・・、」 「・・・もー、どうでもいいけど、早く行きませんか。きっと七松先輩、うずうずしてるし、」 ぐだぐだと語り始めてしまった滝夜叉丸を、呆れた顏を隠そうともせずに三之助は気だるそうに遮る。 「・・・それもそうだな」 体育委員長と云う言葉は、確かに効力を発揮したようで、三之助は内心安堵する。あの、詰まらなく長ったらしい話を聞いているなんてとんでもない。黙っていれば、それなりに見ることができると云うのに、本当に損な性格を持ち合わせてしまったものだ。三之助は、滝夜叉丸を促すように、歩を進めた。 「・・・待て!」 急に、制服の背中の部分を引っ張られて足止めされて、三之助は後ろに反る姿勢で止まる。 「何で。これから校庭に行くんでしょ、止めないで下さいよ、」 「だから、待て!校庭はそっちじゃない!」 進行方向に何の疑問も持たずに返事をしてくる三之助に溜息を吐きながら、その体の向きを方向転換させると、滝夜叉丸は今度こそタカ丸へと意識を向けた。 「・・・すみません、タカ丸さん。こう云ったわけで、夕食当番、よろしくお願いします」 「うん、頑張ってきて」 改めてお辞儀をしてきた滝夜叉丸に、タカ丸は激励の言葉を送る。放っておかれたのは少し詰まらなかったけれど、それを補うくらいには二人の会話は面白かった。 「・・・なぁ、なんで滝夜叉丸、普通にそうしてらんないの、」 タカ丸に対する対応に、少し驚いたような様子で、三之助は言葉を投げ掛ける。 そう云えば、体育委員長である七松小平太に対する態度も似たようなものではあるのかもしれないが、あれは滝夜叉丸が積極的にそうしようとしていると云うよりは、寧ろ半ば小平太の勢いに負けていると云えなくもないと、三之助は考えている。だからこそ、今見た、滝夜叉丸の態度が少し新鮮に思えた。 「先輩を付けろ、」 「・・・なんで、先輩は、普通にそうして、しおらしくしていられないん、ですか、」 訂正を促す言葉に、三之助は如何にも態とらしく言葉を改めた。 「失礼な、私はしっかりと常識は持ち合わせている」 「全然、そうは見えない」 「三之助!」 「・・・・・・まあまあ、落ち着いて。それに、滝夜叉丸は、ちゃんと礼儀正しいいい子だよ、」 タカ丸は、二人の間に入って、滝夜叉丸側に助けを入れる。勿論、三之助の云い分もわからなくはないが、今ここで落ち着かせるべきは滝夜叉丸の方だと判断した結果だ(だって、戦輪なんて持ち出されたら、確実に自分では止められない)。 「・・・ふーん、」 「タカ丸さん・・・」 どうでもよさそうな返事をする三之助に対して、滝夜叉丸は、タカ丸の言葉に感動したのだろう、先程までの怒りは何処へ行ったのか、尊敬の眼差しをタカ丸に向けてくる。 「・・・そう云えば、二人とも、早く校庭に行かないと、ね!」 ほら、と滝夜叉丸と三之助を促すように、タカ丸は背中を押す。 「そうでした!行くぞ、三之助!」 急に焦った顏になった滝夜叉丸が三之助を連れて走り出そうとすると、へーいと、気の抜けた返事をして三之助はその後を追う。 いってらっしゃいと声を掛けると、あっという間に塀を乗り越えて校庭へと走り去ってしまった二人の背中を見て、とりあえず、あれくらい容易に塀は乗り越えられるようにならないとなぁと、タカ丸は感じた。 先を、ひたすら先を見つめて確認しても、目標はまだまだ遠そうだ、振り返ってばかりはいられない。 「・・・今日の、夕食の献立なんだろう、」 体育委員会の分のおにぎり、食堂のおばちゃんに頼んでみようかなと、タカ丸は予定を立てながら、とりあえずは自分の部屋に戻ろうと思った。 おしまい やはり、小平太を出すのはとても難しいです、彼は動かしづらいキャラです・・・そのため、間接的にでも出てもらおうと、彼に関係の深い二人に出てもらうことにしました。三之助が大好きです。思うに、三之助は三年でも長身で、身長だけなら四年生とそんなに遜色ないと思っています、希望です。・・・っていうか、結局三之助は、滝夜叉丸のことをまともに先輩って呼んでない\(^o^)/まあ、いっか。次屋が大好きなので、優遇ぐらいします(ぉぃ 三之助は将来有望です。二年だと、三郎次が有望だと思います。そして、一年だと平太が有望な子なんじゃないかと思っています。四年は勿論タカ丸だと思います。っていうか、ただの好みです。 |