伝えたいことは

もう君の中にある

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「文次郎くん、文次郎くん、髪結わせて、」
突然、六年い組の長屋に跫音を立ててやってきたのは(忍者のたまごとは云え、けしからん、と文次郎はタカ丸のおとないを感じると、溜息を吐いて出迎えた)、先日知り合ったばかりの斎藤タカ丸と云う四年生だ。片手には、髪結いに使うための道具が入った箱が握られている。
話を聞くところによれば、同じ齢だと云うので、先輩ではなく、文次郎と名前で呼んでも構わないと云ったところ、何故か無意味に懐かれてしまったような気もしなくはないのだが、実害はないので、文次郎は咎めることなく受け入れている。それに、最高学年であることを除いても、何の屈託も、畏怖もない態度で接してくる後輩はなかなかいないため、珍しいと思ったことも、間違いではない(恐らく、編入したばかりで、この学園や忍についての知識が不足していると云う要因も含まれているのだろう)。
「・・・斎藤、お前、仮にも忍たまならば、跫音くらい控え目にして来い、」
それでなくとも、六年の長屋には、いつ何処に何が仕掛けられていてもおかしくはないのだ。六年ともなれば、恐らくは避けることが可能なからくりばかりではあるが、たまにはそうでないものも含まれている。更に、タカ丸は、残念ながら年齢においては同等ではあるが、学年も経験も不足しているので、危険極まりない。勿論、この部屋までの道程にそんな仕掛けがないことを把握してあったからこそ、文次郎は、タカ丸の訪問を動かず待ってはいたのだが。
「はぁい。・・・で、髪結わせて下さい、お願いします」
「それは、構わんが・・・」
己の頼みが受理され、タカ丸は歓喜の言葉を上げた。その様子は、とてもではないが、同じ齢には見えず、文次郎は内心苦笑をする。
実際、髪を結わせて欲しい、と頼まれたのは、今回で2度目だ。前回、何となく(知り合いになったとは云え)他人に背後をとられた状態でいることに抵抗を覚えた文次郎は(何せ、仮にでなく、学園で最も忍者に近い学年なのだ)、タカ丸の願いを断るのだが、その後、とんでもない根性で粘られて面倒なことになったので、同じ轍はもう踏むまいと学習した文次郎は、語尾は曖昧に、受け入れた。
「・・・そう云えば、立花先輩はいないの、」
「ああ・・・作法委員会がある、と云っていたからな、今頃委員会中だろう」
そっかぁ・・・と、少し残念そうな声で相槌を打つのは、恐らく、自分に頼むならば、そのついでに仙蔵の髪も触らせてもらおうと考えていたが、生憎の不在でそれが叶わなかったからなのだろうなと、その意図を読んだ。しかし、仙蔵が在室していたのならば、ついで、となっていたのは間違いなく自分だろうなと、文次郎は、やけに髪質の素晴らしい同室の相方を思い浮かべた。
「委員長、って大変なんだねぇ・・・会計ともなれば、もっと大変でしょう、やっぱり」
三木ヱ門も、時々文次郎くんみたいに、目の下に隈を作ってるときあるから、大変そうだなぁって思ってたんだ。
深緑の頭巾を外され、髪紐を解かれながら、文次郎はタカ丸の軽口を適当に相槌を打ちながらも聞いていた。
「地獄の会計委員長、だからな。田村も、何か愚痴を零していただろう、」
会計としての雑務を徹夜でこなすならばまだしも、時折、会計とは関係のない鍛練を行い、会計委員たちを鍛えているのだ、文句の一つや二つはたまたそれ以上が、自分の耳に入らないところで囁かれていたとしても、別段、不思議ではないと、文次郎は納得している。それでも、文句を云いながらも、疲れながらも、後ろをついてくる彼らの努力を、文次郎は買っている。
「・・・う〜ん、まあ、確かに少しは」
だろうなと、文次郎が短く返せば、タカ丸が少し申し訳なさそうに空笑う。
軽く髪を梳かされ、今度は、タカ丸が何かの液体を手に塗り込んで(前回、それ、が何であるかを聞いたのだが、あまりにも専門的なことばかり云われ、興味もなかったために、忘れた)、文次郎の髪にそれを滲み込ませた。
「でも、三木ヱ門も、文次郎くんの思いがわからないほど、鈍感じゃないと思うんだ」
「・・・・・・お前に、何がわかる」
声を少し低くして、タカ丸に返すと、ぴた、とタカ丸の手の動きが止まる。
「文次郎くんは真面目だから、後輩たちのために、委員会で忍者としての鍛練を課すんでしょう、」
「・・・」
「若いうちから、経験を積ませておけば、六年になっても、卒業しても、その経験は彼らのためになるから」
そう云い終えると同時に、タカ丸の手指が再び動き出した。文次郎の髪や頭皮を指で揉み解すような動きに、文次郎は自然と瞼を下ろした。
「それで、厳しいと敬遠されているけどな、」
優しく頭部の壺を刺激してゆくタカ丸の指を感じながら、文次郎は黙る。
「・・・そんなもんじゃないかなぁ。僕だって、ここに入学する前は、一人前の髪結いになるために、父さんの下に就いて修業を積んでいたけど、けして易しいものじゃなかったよ。嫌だな、って思うときもあったし」
勿論、やっていてよかったなぁ、って思うことだってあったよ。長いこと一つのことをやっていれば、いろんなことがあるよね。僕も、これからここでそうやって暮らしていくんだなぁ。タカ丸は、小さく笑いながら、自分の経験を語ってゆく。
「・・・一人前の何かになる、ってそう云うものだと思うんだ、それを頼りに食っていくならね・・・それが忍者なら、尚更」
ゆっくりと、黙する文次郎の背中に、タカ丸は話しかけてゆく。
「やさしいよね、文次郎くんは・・・。こうして、僕が髪を弄らせて欲しいって頼んだら、自分の時間を割いて付き合ってくれるし」
自分が嫌われても、敬遠されても、誰かのために何かをしてあげる人は、そういるものじゃない。きっと、自分にとっての父がそうであるように、会計委員にとっての文次郎は、お手本なのだろう。そこに、様々な感情が入り混じりながらも、きっと、三木ヱ門も文次郎を尊敬しているに違いない。
恐らく、自分よりも、忍者としての修業を長く積んできた文次郎に、こんなことは今更過ぎて話しても仕方がないことかもしれないと、途中で感じたのだが、それでも構わないと、タカ丸は話し続けた。文次郎に話しているようで、同時に、これからの自分にも云い聞かせていたのだから。
結局、口を開かない文次郎に、タカ丸は苦笑しつつ、仕上げにと、髪を櫛で梳き始めた。
初めて会話したときよりも、髪質の悪さは改善されているように思える。勿論、タカ丸としてはまだまだ不満な点ばかりではあるが。それでも、自分の忠告を聞き入れてくれる文次郎は、やはり真面目だと、タカ丸は櫛を通しながら思う。
「・・・あ、気になるところや痒いところがあったら、遠慮せず云って下さいねー」
そう云うと、思いの外早く、ない、と云う返事が返ってきて、タカ丸は今度こそはっきりと笑ってしまった。
梳き終わると、先刻外した文次郎の髪紐を縛りやすいように持ち、櫛を使いながら文次郎の髪を、いつもと同じ少し高めの位置で結えてゆく。
最後に、文次郎の両肩をぽん、と軽く叩いて、終わったよ、と一声掛けた。
「・・・・・・斎藤、」
「なぁに、」
「・・・後悔、していないのか、ここに入学して」
文次郎は、振り返り、立て膝でいるタカ丸を見据えて問うた。もしかしたら、自分が聞いて良い質問ではないのかもしれないと、思いはしたが、それでも、とても気になってしまった。
「してないよ。授業とか訓練が辛いのは当たり前だけど、滝夜叉丸も三木ヱ門も喜八郎も、兵助くんも、文次郎くんもみんな優しいから、大丈夫。入学して、みんなに会えて、良かったって思えるんだから、後悔なんてしないよ、」
そうか。それだけ返すと、タカ丸から頭巾を受け取り、文次郎は、自分でそれを着け直した。
「・・・助かった、また頼む」
前回やってもらったときも感じたが、時間さえ空いていれば、こちらから頼んでやって欲しいくらいだと、文次郎は思う。ただ、都合をつける云々よりも前に、今回は、こうしてタカ丸の方からやって来ただけの話だ。
髪結いになるのに十分な腕を持ちながら、忍者としての道を選んだ目の前の男に、文次郎は聊か惜しいものを感じたが、それでも、この道を選んだことを後悔しないと本人が口にしたのだから、それが答えなのだろう。わざわざ告げるほどのことでもない。
「うん!こちらこそ、またお願いすると思うからそのときはよろしくお願いします、」
文次郎は、お辞儀をしながらそう云うタカ丸に見えないように、薄く笑ってみせた。





おしまい

可愛い、天然なタカ丸が大好きです。でも、町育ちでちょっとスレてるような感じのタカ丸は大好物です。
私の中で基本、もんじもタカ丸も攻めな部類に入ります(笑)っていうか、この2人でのCPは私の中ではありません。あくまで&。あ、でも、タカ仙なら普通にいけますvvvサラストですから。
今のにんたまキャラを好きな順に並べたら↓こうなります。
けま>タカ丸>>>(越えられない壁)>>>@BH>次屋>もんじ>団蔵>くくち・・・・・・
基準がさっぱりわかりませんが、2年(入ってないので)では左近が好きです。