オレとキミとカレのかんけい |
「・・・さみし〜ね、乾」 「まあ、生活に支障は来たさないくらいにはみしいな・・・」 いつもと変わりのない生活と言ってしまえば、そこまでだった。実際、2人は今もレギュラージャージを身に纏って、片手にはラケットを握って部活に精を出している。その精を出すというものの程度は、個人の問題だとしてもだ。乾の現実的な要素が含まれている言葉を聞いて、不二は少し呆れたような笑みを見せた。 ただ、さみしいと思っていることは、程度が違えどお互い同じだった。 「手塚、今頃何やってるんだろうね・・・どう、データマン?」 「それはまた、予測範疇外だな」 大体、遠すぎるよ・・・と乾が愚痴を零しながら、お互いの背中をくっ付けると、組まれた腕に力を入れて、乾が背中で軽々と不二を持ち上げた。不二の視界いっぱいに空が広がる。 「ホント・・・っ、遠いね」 現代の交通機関でならばさほど時間はかからないにしても、いや、現代の通信機能でならば、遠くにいたとしても携帯などで連絡がとれる。と言ったところで、不二も乾も殆ど手塚とは連絡をとってはおらず、その役目は大方大石だった。 さみしいと言うわりには、言動が一致していないのが、またおかしい。乾が5秒毎に20秒数えると、不二を背中から下ろした。 「・・・僕が乾を持ち上げるのは、普通に考えて無理だから、あとでタカさんにでもやってもらって」 「そうやって、お前は楽をしようとする」 「人聞きが悪いなぁ・・・別に、乾を持ち上げるのが面倒臭いわけじゃないんだよ」 不二と乾との身長差は15cmはある。平均的に見れば、自分が普通であって、乾が単に大きすぎるというのが不二の意見だった。不二にして見れば、乾ほど大きくなりたいわけではないが、もう少し身長がほしかったのかもしれない。 乾にしたら、嘘付けというのが本音ではあったが、あえて口に出さないのは、それだけ乾が賢いということになるのかもしれない。今のところ、不二に口で勝てる人物はそういない。 「ただ、無理なことはしない性質なんだ」 にこりと笑いながら呟く不二に、乾は性質が悪いと思わずにはいられない。そういう自分も、相当性質の悪い笑みを見せると言うことに気付いていない辺り、不二とさほど変わりはないが。それでも、お互い、こんな会話を楽しんでいることもまた確かであった。 言うならば、気が合うのだろう。 「・・・よく言うよ。手塚相手には、本気になるくせに」 「それは、僕が手塚に勝てないっていうことを前提に言ってるのかな?今までの話の内容からすると」 「違うのか?」 「・・・・・・・・・大きなお世話だね。それに、もし手塚相手に本気になるとしたら、それはキミのいないところでだろうね」 データなんて取られたらたまらないと言うように、嫌なところをついてきた乾に負けず、不二も発言した。 打倒手塚を目標にしている乾だが、その相手は手塚だけに留まらない。それこそ、今目の前にいる相手とて、その目標の1つでもある。 「キミは、1番油断ならないから」 少し間を空けて不二は付け加えた。そう言って、2人の間に一時、言葉が消えた。しかし、そのしんと静まった空気は、けして冷たくはない。それは、苦痛のものではない、あくまで穏やかな沈黙。 「・・・・・・・・・手塚よりもね」 「良い方に、受け取らせてもらうよ」 「お好きなように」 乾にしてみれば、この不二の言葉は充分価値のあるものだった。それこそ、その言葉を手塚から言われたのならば、それは不二に言われる以上のもので。勿論、不二言ったものが、どのような意味合いを含んで口にされたのかということまでは、正確にはわからないが(不二だから尚更のことで)、それでも、乾なりに解釈はしたようだった。 ―――――視界には、入っているのだ、と。 乾からしてみれば、この不二も、手塚も・・・そして越前も、どんどん前へと進んで、自分など見ていない、視界に入れていないものだと思わないわけではなかった。 実際、乾はこの3人に負けている。悔しくないはずはなかったが、心の何処かで、それを許してしまう自分がいるということも許せなかった。だから尚更のこと、3人への闘争心を乾は自分自身で促すのだ。 「でも、当分、データはとらせてあげないよ」 乾は、よく言う・・・と言うような顔を、溜息と一緒に見せた。 「・・・ところで、青酢は飲むかい?改良して、健康にいいぞ」 「結構。最近のキミの作る野菜汁は、大嫌いだ」 以前、それを飲まされて倒れた経験のある不二だからか、尚更言葉に強みがある。勿論、それ以外の(味覚が普通の)人なら、それ以上に嫌がるだろうが。 「じゃあ、試しに手塚に送ってみるか・・・健康にいいからな」 「健康にいいかどうかは置いといて、それなら協力するよ」 こうして、不二が乾の話(企み)に乗るのも、好奇心や気が合うからだろう。お互い、物事を自分が楽しい方向に持っていくというのが好きなのか、そういった場面が多々ある。 「・・・僕らが言うと、本当にやりかねないから、すごいよね」 「自分で言ってどうするんだ」 「だって、ツッコむ人がいないから」 一言で言ってしまえば、乾は、この時間が楽しかった。いつまでも、続いてくれれば言いと思う反面、何かが足りないと思う。本当に楽しいのは、今ではなかっただろう。不二の言葉を聞いて、乾は思う。 そして、不二にとっての「ツッコむ人」とは、紛れもない手塚のことだろう、乾にはすぐにわかった。いつも、乾と不二が2人で何かを企んでいるのを止めに入るのが手塚だ。というよりも、それ以外に、一体誰がこの2人に勝てることができるだろうかという問題が、現実問題、浮上してくる。それを考えれば、手塚しかいない。 「・・・そもそも、今、部活中だな」 「うん。僕たち、一体なんでこんな話してるんだろう」 真面目に部活やらないといけないのに・・・と笑いながら、言い合った。 やる気はあれども、自然と2人でいると、違う方向に話が出て勝手に口が開いてくるのだから、また不思議なものだ。他愛のない、いつでもできるような話にも関わらず。 お互い、練習の輪へと入ろうと足を進めた。 「・・・怒る奴がいないからな」 そう言って、思い出すものは、2人揃って、一緒だった。 END |