以 心 伝 心
御題配布元 : http://lonelylion.nobody.jp/



1人で静かに本を読んでいる姿が視界に入った。そしてそのまま、視界の中心へと移動させる。本の表紙には、『罠』という文字が確認できて、大和は内心怯えたが、視線は逸らさなかった。
すると、千尋の視線が本から大和へと移り、2人の視線が絡まった。

よく目が合うな、と大和は思った。

始めは、たまたま視線がぶつかるだけなのかと思っていたのだが、それが頻繁に起こると、違うのだろうかと疑問に思った。大和が千尋の方へ視線を投げかけると、殆どの確率で視線が搗ち合う。
それでは、まるでいつも千尋が自分のことを見ているようだ、と大和は思わずにはいられなかった。単なる誤解なのかもしれないが、強ち間違ってはいなさそうだ。そうでなければ、大和が千尋を見るタイミングをわかっているのだろうか。

「・・・気になる?」

今度は大和が、何か言いたげな表情をして、千尋の方を見る。それに逸早く気付いた千尋は、そのことが嬉しいというように、言葉を吐き出した。
視線が合うと、千尋は微笑む。
顔が紅潮してしまいかねないそれに、大和は戸惑う。気にならないはずがない。一体、この笑みを、真っ向から受け止められる人物がどれほど存在するのだろうか。言い表しようのない恥ずかしさを感じる一方で、大和は、与えられる笑顔に喜びをも見出すことがあった。
大和は首を縦に振る、肯定の証に。

「俺もね、小林クンが気になるんだ・・・一瞬たりとも目が離せないくらいに。」

千尋は、大和の視線を逃さない。例え、無意識に向けられたものだったとしても、間違いなく自分を意識させるように仕向ける。それは、偏に、大和に対する執着がさせていた。
先程の千尋の視線と同様、この言葉は大和を戸惑わせるのに十分なものだった。

「俺が何を言いたいのかわかる?」

その問い掛けに、大和は沈黙する。そうしている間にも、千尋の手が大和へと迫ってくる。大和は上体だけを僅かに反らしたが、それは些細な抵抗でしかなく、二人の距離は益々縮んでいく。千尋の何をするかわからないところが、大和は恐ろしくもあった。とんでもないことにならなければいいのだが、とひたすら願う。

「ち、千尋くん・・・」

教室だよ、と言葉をかけると、漸く千尋は、大和へと向ける視線を弱めた。大和は、ほっと安堵すると、肩の力が抜けるような感じを覚えた。

「・・・・・・俺はね、キミのこと好きだよ。」

何度か耳にした千尋からの言葉。告げるというよりは、大和がそれを理解しているのかどうか、確かめるように感じられる。囁くように近くで言われたため、誰にも聞かれていないだろうとはわかっていたが、大和はやはり周囲を確認してしまう。
それを見た千尋は、小さく笑った。

「うん、知ってる。」

千尋の言葉に、肯定の言葉を返す。わかっている、と。おそらく、千尋が望んでいる答えを。
僕も、とは、敢えて答えない。きっと、千尋は聡いからわかってくれるだろうと、半ば独りよがりなことを考えてしまう。
千尋の顔が綻ぶのがわかった。





END.