望みのない悲壮には真っ白な
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「僕にはお前のように、物事を切り抜けるだけの力も、何もないんだ、龍蓮」

常とは異なり解かれた黄金色の髪が、珀明の浮かべる歪んだ笑みを僅かに覆う。けれども、碧の名に相応しい色をした双眸の強さは毫末も損なわれることがない。龍蓮は、この意志の強い瞳が好きであった。悲しそうに顰められた今でさえ、それは変わらず愛しい。

傍にいると自分が危険なのだと、愛しい友人は龍蓮を突き放すことをしない。寧ろ、自分という存在が枷となるだろうことを悲観するが故の言葉であることは、聡い龍蓮の知るところである。
何をそんなに悲観することがあると云い、珀明の頬に触れようとしたところで、無慚にも手を叩き落され、龍蓮は軽く落胆の色を滲ませる。

「龍蓮、」

名を呼ばれ、龍蓮は再度手を伸ばす。今度は拒絶されずに受け入れられたという事実に、胸中何処か安堵を覚えながら、珀明の頬を拇指の腹でなぞる。僅かに摺り寄ってくる感覚が酷く愛おしいかのように、龍蓮はその瞼へと口付けを落とし、身体を腕の中に収める。
一連の所作に抗う素振りすら見せず、珀明は逞しい胸へと額を寄せる。

「りゅうれん、」

名を明瞭なる発音で、ゆっくりと囁かれ、愛しさが増す。
何度も何度も、幾度も、厭きるまで――恐らくそのときが来ることはない――囁いてくれと願う。

「お前が傍にいることを厭わしいと、恐いと思わなくなるほど、錯覚できればいいのに、」

それは、酷く愛(かな)しい本懐―――望みは酷く薄い――で、龍蓮の行為を促す触媒にたるものであった。

珀明の頤を軽く捉え、そのまま擡げる。口付けを与える瞬間の、珀明が浮かべた微笑とも言えぬ表情を龍蓮は瞼を下ろして黙殺する。
珀明の中で渦巻いているだろう、この行為に対する不安や恐怖、焦燥の素因は相違無く自分にあるのだということが居た堪れなく、又心を満たす。珀明の心の一部を占めているだろう自分の存在が、龍蓮の歓喜の感情を沸々と湧き起こすのだ。それは、甚だしい自己満足でしかないのだけれど。

「それは……現実逃避だ、珀明」

呼吸が感じられるほどの至近距離。

「現実から目を逸らせば、見えるものも見えなくなる」

棘のような視線も一瞬で緩み、諦観を含むそれに替わる。
目下、この瞳に映るのが自分であり、自分の瞳に映るのも珀明だけである、ここに現実は不要だ。それは至極幸福感を誘うけれども、それだけではいけないという理性が確かに存在する。
恐らく、現実が二人の間から消え去ることになった暁には、自分が愛しい友たちを守る力は削がれるだろうと龍蓮は嘯く。そして、そのときが来ないこと願う。

暫しの休息、刹那の安息、その程度でいい。この幸福感を味わうのは。

「……だが、心の友の願いだ、僅かながら尽力は致そう」

快楽という名の安寧を以て、束の間、微温湯に浸る。

龍蓮の意図を察するや否や、珀明は僅かに後退するが、腰に絡む腕がそれを許諾することはない。寧ろ、その後退する力を利用して珀明の身体を臥牀へと誘う。この行為を止めるための手段は、完全なる拒絶のみ。そして、珀明からそれが示されることはない。僅かな退路でさえ断ってしまうのは紛れもない自分ではあるのだが。

「名を―――――」

呼んでくれ、そう籠めて耳許で囁く。

乞う様は、今までの自分には見られなかった新たな姿だ。乞うことは即ち弱さを意味する、少なくとも龍蓮の生きていた世界観では、それが一つの観念ではある。無論、完全たる弱さなど、未来永劫誰にも見せることなく大地に沈むだろうことは予測できるが、それでも片鱗を曝け出すことのできる相手がいるということは、程度は様々だが龍蓮に幽かな安寧を齎す。

「…………龍、蓮」

紡がれた言葉ごと攫うかの如く、龍蓮は珀明の身体へと覆い被さり、唇を奪った。甘んじてでも、自分を受け入れる存在が狂おしいほど愛しい。頬に触れてくる手掌のあたたかさが愛しい。

この金色のやわらかいひかりは龍蓮を侵蝕し、いざなうのだ、刹那なる安寧へと。







意味不明。
珀明は龍蓮の名を呼びすぎ。龍蓮は愛しいと思いすぎ。
「お前が傍にいることを厭わしいと、・・・」 = 「お前だけしか眼に映らないといいのに」
ですよ?!意味的には。そんなことを珀明が言うはずがないと思いながらも、妄想に浸る。