可惜夜+



藍龍蓮と、本当の意味で一夜を過ごした碧珀明は、翌朝、目覚めてすぐ、約束通り自分の傍らに座っていた龍蓮を確認すると、安堵した。それはもう、心から。珀明が目覚めるまで傍にいるという約束は果たされた。龍蓮は、じきにいなくなるだろう。
体を起こして、おはようと言えば、返事の代わりに掌が頬へと下りてきて、そのまま髪へと口付けされた。恋愛を詠った詩などでよく見られる後朝(きぬぎぬ)とは、こういうことを言うのだろうかと思った。流石、あの藍楸瑛の弟なだけのことはあると感じる。自分が女だったら、また違った反応の仕方があっただろうと思う。恥ずかしいとは思うが、昨晩の情事に比べたら、こんな行為些細なものであると一晩で達観した。

「体は辛くないか、珀明」
「辛いに決まっている。・・・・・・あぁ、これから出仕だと思うと・・・・・・」

先が思い遣られる。
何故かと言えば、吏部で最年少の珀明には、自然と体を使う仕事が回ってくるわけで。吏部侍郎である李絳攸とて若い部類に収まるのだが、その肩書き故に走り回るわけにはいかない。とは言うものの、絳攸自身には、それ以上の問題を抱えているという障りもあった。
休むわけにはいかないことはわかっているが、どうにも下半身が重い。倦怠感が纏わりついている。唯一の救いは、眠気がないことだろう。

「・・・朝食はどうする、食べていくか?」

珀明の言葉に、龍蓮は頷く。その反応を見て、普段通りに接することができることにほっとした。ただそれだけのことなのだが、2人の間の溝は相変わらずで嬉しい。何も変わらない、変わらなくていいと、珀明は思う。別段変わったことといえば、龍蓮が珀明に触れる頻度が増したことだろう。

「・・・・・・私は、少し、貴陽を出る」
「そうか・・・気を付けろよ。・・・まあ、そんな心配もいらないだろうが」

また当分顔を合わせることはないだろうとわかると、いろんな意味で安堵を覚える。もし、再び龍蓮が自分を求めてきたらと思うと、珀明には未だ戸惑いと恐れが取り巻くのだ。落ち着いて考える時間が欲しい。畢竟、受け入れて欲しいと懇願されたら、受け入れてしまうだろう、とは思ってはいる。
だが、所詮、そう遠くない内に、自分には今まで以上に縁談が持ち上がり(おそらく、龍蓮にも同様のことが言えるだろう)、2人の間の溝は深まるばかりなのだ。勿論、友であることは、変わらないだろうが。だが、そうなるのがわかっているなら、できるだけ訪れて欲しい。なんと言っても、龍蓮が来てくれなければ、自分たちは顔を合わせることすらできない。珀明は、そんな自分の立場が歯痒かった。

「・・・珀明、いずれ、厄介なことがやってくる・・・あまり無理をするな」
「何が言いたい」

抽象的すぎて、龍蓮の言動は時に理解に苦しむ。嘘は吐かないが、本当のことを言うにしても、よくわからない。とりあえず、嘘ではないのだから、頭の片隅には入れておこうと珀明は決めた。

「あまり痩せて欲しくないということだ、抱き心地が悪くなる」
「・・・っ、この莫迦野郎!」

珀明は顔を紅潮させ、枕へと手を伸ばし、素早く龍蓮の頭へと投げつけた。
珀明が、龍蓮の言葉の真意を知るのは、もう暫く後のことになる。







ややほのぼの後朝おまけvvv姉上騒動の予告(?)みたいなことをして去っていく龍蓮。捏造のみの話(恥)。
なんか、龍蓮は、これからも抱くき満々なようです。(それを、ただ抱き締めるだけなどとは解釈できない私。)でも、せめて休日の前だけに控えて欲しいと思います。(といっても、殆ど放浪していていないも同然なので、珀明は甘く見て受け入れちゃうのでしょうか・・・。)